2010年03月11日

描写をバタつかせないためのステップ:後編

前回はこちら

■STEP2:再び膨らませる

 今度はSTEP1で作った、描写のプロットが幾つかあると思いますが。その中から、どれでも構いません。どうせ何度も練習することになるのですから、適当で良い。気に入ったものを、ひとつ選んでください。そして、Q1の練習文と比較しましょう。
 もちろんQ1とQ2とで比較するのは、練習として基本かもしれませんが。ですが、いろいろな組み合わせを試した後ならば、より深く作品の意味を理解できるはずです。

 今ならば分かるのではないでしょうか。
 Q1の解答は、喩えるならば「伝えたいことの反復横跳び」になっているのです。視線が上を向いたかと思えば、すぐ下を向き。遠くを見たかと思えば、いきなり自分のこと、つまり近くに戻ってみたり。視野が広くなったり、狭くなったり。
 ともかく「伝えたいこと」に落ち着きがない。読んでいて、情景をイメージする暇がありません。

 というわけで、やっとこの段階にまで来ました。選らんだ描写プロットを元に、自分なりで構いませんから書き直してみましょう。再び、伝えたいことを膨らませるのです。今度こそ要点を見失わないよう気をつけてくださいね。
 ただし、ひとつだけ注意です。Q1の解答で使った語彙は、いくらでも使い回しても構いません。と同時に、新しく付け加えても、削っても結構です。つまり、使う語彙は基本的に自由ということになります。

 すると気付くでしょう。同じ情報量・内容でも、しかるべきステップを踏めば、読む印象は変わってくる。実際にSTEP1でもやったことといえば、情報の組み合わせ方の違いから生じる、意味の確認だけでした。
 そうして、「何を書くか」という次の段階、「どう書くか」とはどのようなものかを体験して欲しいと思います。《それ》こそが描写の次ステージ、すなわち《視点》の問題となってきますから。これ以上は高度になってくるので、また別問題になってきます。

 以上、ここまで「書きたいことを膨らませる」、「要点を捉える」、「どう書くかを意識して意味を作る」と、何段階もの複雑な工程を経てきました。
 もしかすると、面倒臭いと思われるかもしれません。ですが以上は慣れてしまえば、無意識的に行えるようになってきます。この「新たな工程を憶える→無意識的に使えるようになる」というプロセスこそが、《上達》というものなのです。
 ゆえに、手を抜いていると、いつまでも上達できないわけなのですね。



■手で憶える

 ここから先は蛇足になります。

 当然といえば当然なのですが。
 技法というものは知識として、頭で憶えても使い物にはなりません。文章を書いている最中、困ったことがあったら咄嗟に使えるようでないといけない。
 そのためには、頭で憶えた知識を、直感とか本能といった深いレベルにまで刻みつける。いわゆる「手で憶える」ことが必要となります。

 小説修行とは、先達から学んだ《正しさ》に基づいて、だが自分なりの責任で答えを出さなくてはならない。すると、他人から与えられた答えでは、《自分なりの正しさ》を証明できないことに気付きます。必要なのは、「他人から与えられた魚」ではなく「自分で身に付けた魚の釣り方」なのですから。
 ですが、「魚の釣り方」を憶えるには、自ら竿を握って、試行錯誤を重ねるしかない。だから技法というのは知識を暗記して「やってみた」だけでは足りない。自分なりの答えを出すには、いつだって「手」にしかできないのです。
 その意味で今回Mさんの「できた」という報告は、大したものだった。それだけの苦悩を重ねた末に、自分で解決法を見出した、ということですからね。

 そして、普通の職人芸であれば「手で仕事を覚える」ためには、ともかく数をこなすしかありません。が、小説だと、ちょっと事情が変わってくる。小説技法というものは、自分で自分に対して、問題意識を抱いていないと身に付けられるものではありません。
 問題意識とは、自分への不満・不足からしか生まれない。自分には何が足りないのか、自分はどこが弱いのか。自分で自分が弱さを認めるというのは、辛い作業です。
 そうやって、毎日の食事が血肉を作るように。小説への苦悩を糧に、自分の精神を構築する細胞を入れ替えてゆく。《書き手》という、別のイキモノになる。自分で、自分の望む、自分自身になる。

 すると、また自分の中に他の欠落が見つかってしまう。また苦悩を重ねる。再び、新たな自分へと生まれ変わる。それを何度も何度も繰り返す。
 これが小説修行というものです。
 苦しいばかりで、なかなか結果の出ない、でもやり甲斐のある作業であることは確かです。Mさんは、その門前に立ったというところでしょうか。是非とも楽しんでもらいたいものです。

以上っす。




 ……いやあ、一度面と向かって口頭での批評をやってあげたいものだ(笑)
posted by はまさん at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学的(描写)
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